モーリタニアとはどんな国?「遊牧国家」の特徴と成り立ち
このページでは、「遊牧国家」として知られるモーリタニアのサハラ砂漠に広がる乾燥した地理環境、ベルベル系やアラブ系を中心とした遊牧文化の伝統、フランスによる植民地支配と独立の歴史、奴隷制度の残存や社会の格差問題、多民族国家としての課題と現代の政治・経済の動向を通じて、モーリタニアという国の成り立ちと特徴をわかりやすく解説しています。

モーリタニアとはどんな国?「遊牧国家」の特徴と成り立ち

モーリタニアの国旗

緑はイスラム、金は砂漠と希望、三日月と星は信仰を象徴し、上下の赤帯は独立の犠牲を示す

 

モーリタニアの場所

北西アフリカに位置し、西は大西洋に面し、北に西サハラとアルジェリア、東と南にマリ、南西にセネガルと接する

 

基本情報
正式名称 モーリタニア・イスラム共和国
首都 ヌアクショット
面積 約103万平方キロメートル
人口 約490万人(2024年推定)
公用語 アラビア語
通貨 ウギア(MRU)
地理 北西アフリカに位置し、大部分がサハラ砂漠。大西洋に面する。
歴史 1960年にフランスから独立。軍政と民政の交替が繰り返されてきた。
経済 鉄鉱石、金、漁業が主要産業。農業は厳しい自然条件により制限あり。
文化 イスラム教が国教。アラブ・ベルベル文化が強く影響。
国際関係 アラブ連盟、アフリカ連合加盟国。

 

モーリタニア」って、地図で見るとアフリカ大陸の左上――サハラ砂漠の真ん中にある大きな国。でも、どんな国かは意外と知られていませんよね?実はこの国、アフリカ、アラブ、ベルベルの文化が交差する“砂漠の国”であり、世界で最後まで奴隷制度が残っていた国でもあるんです。ここではそんなモーリタニアを、「歴史・社会・文化・地理」の視点から紐解いてみましょう。

 

 

どんな歴史?

モーリタニアの歴史はサハラ交易とイスラム化によって形づくられてきました。古代にはガーナ帝国やマリ帝国といった西アフリカの大国と関わりながら、金・塩・奴隷の交易ルートの要所として発展しました。

 

11世紀にはベルベル系のムラービト朝がこの地からイスラムの宗教改革を進め、イスラム教が広く浸透。19世紀後半にはフランスに支配され、「フランス領西アフリカ」の一部として統治されました。

 

1960年に独立を果たした後も、軍事クーデター、独裁政権、内紛が繰り返されました。そしてモーリタニアといえば忘れてはいけないのが奴隷制の問題。法律上は1981年に廃止されたものの、実際に「奴隷解放法」が制定されたのは2007年で、今なお奴隷的慣習の根絶が大きな課題となっています。

 

どんな社会?

モーリタニア社会は、民族と階級、宗教と伝統が複雑に絡み合っています。サハラの厳しい自然環境の中で、家族と部族、イスラムの規範が人々の生き方を大きく形づくってきたんです。

 

政治|軍の影響力と限られた表現空間が交錯する統治

大統領制の共和制で、一応は複数政党制ですが、長年にわたって軍の影響力が強いのが現実。2019年に初めて平和的な政権交代が行われたことは前進でしたが、言論の自由の制限や人権問題は依然として多く指摘されています。

 

経済|資源輸出と貧困の格差が浮かび上がる二面性

経済は漁業、鉱業(鉄鉱石、金)、家畜飼育が中心。特に鉄鉱石は国の最大の輸出品で、中国などに輸出されています。ただし富が偏っており、農村部や遊牧民の貧困が深刻です。雨が少なく農業が難しいため、気候変動の影響もかなり大きいです。

 

宗教|シャリーアと日常規範が織り成す社会統合

国民のほぼ全員がスンニ派イスラム教徒。イスラムは国家のアイデンティティでもあり、シャリーア(イスラム法)も法体系に組み込まれています。宗教は日常生活のあらゆる場面に影響していて、伝統的な価値観が根強く残る社会です。

 

言語|アラビア語を軸に広がる多言語ネットワーク

公用語はアラビア語、そして国家レベルでフランス語も広く使用されます。ほかにも、ベルベル語(ハッサーニーヤ)、ウォロフ語、プル語、ソニンケ語など複数の言語が話されていて、多言語・多民族国家の顔を持っています。

 

 

どんな文化?

モーリタニアの文化は、砂漠とイスラム、そして民族の伝統が調和した独特な世界。都市よりも村、村よりもテント。そんな「移動する遊牧文化」の面影が今も色濃く残っています。

 

美術|実用と信仰が刻む遊牧民の芸術

手工芸、銀細工、刺繍入りの衣装などが伝統的で、特に遊牧民の文化がベースになっています。装飾というよりは、実用と信仰が融合した形で表れることが多く、「使いながら伝える文化」とも言えます。

 

スポーツ|サッカー熱が育む国民的団結

サッカーが一番人気で、代表チーム「ムルアビトゥン」は国民的な誇りになりつつあります。近年はアフリカネイションズカップに初出場するなど、スポーツでの国際的な存在感も少しずつ出てきています。

 

食事|ミレットと肉料理が紡ぐ砂漠の味覚

主食はクスクスや米、ミレットで、ラクダ肉や羊肉、魚がよく使われます。味付けはスパイス控えめであっさりめ。甘いミントティーは「モーリタニアの心」とも言われていて、おもてなしの象徴でもあります。

 

建築|移動暮らしと都市の歴史が映える住居

伝統的な建築は土と藁で作られた住居や、テント(ケイマ)。現代でも遊牧民や半遊牧の生活をする人もいて、移動型の暮らしに合わせた住まいが息づいています。都市部ではフランス統治時代の建物やモスクが特徴的です。

 

 

どんな地理?

モーリタニアの風景といえば、やっぱり果てしない砂漠。国土の大部分をサハラ砂漠が占めていて、広大で乾燥した風景がどこまでも続いています。でも、その中にこそ人の知恵と文化が根づいているんです。

 

地形|サハラとサヘルが描く変化に富む地形

国土の9割以上が乾燥地・半乾燥地。北部は岩山や砂丘、南部はサヘル地帯となっていて、ニジェール川が国境の一部を流れ、わずかな農耕地が広がっています。“生きる場所を探す”地形とも言えるかもしれません。

 

気候|乾燥と極端な気温差が際立つ自然環境

乾燥した砂漠気候とサヘル気候がメインで、雨季は短く、年間降水量は非常に少ない。日中は灼熱、夜は冷え込みが厳しく、厳しい自然環境の中で暮らす人々の知恵が光ります。

 

自然|砂漠適応生物と沿岸の豊かな水辺生態

野生動物は少なめですが、砂漠に適応した動植物が暮らしていて、バン・ダルガン国立公園では湿地に生息する渡り鳥や魚類が見られます。海岸線では漁業資源が豊富で、エビや魚介類の輸出も盛んです。

 

モーリタニアは、広くて静かで、ちょっとミステリアス。でもそこには、砂漠を生き抜く強さ、文化の奥行き、人々の誇りがしっかり息づいています。「知らなかった」からこそ、知る価値がある国。それがモーリタニアなんです。