アフリカの死生観とは?生と死をどう捉えるのか、地域ごとの違いも紹介

アフリカの死生観

アフリカの死生観は「死は終わりではなく、祖先とのつながりの始まり」と考える文化に根ざしています。地域ごとに儀式や霊の信仰形態が異なります。本ページでは、西アフリカの祖霊信仰や東アフリカの宗教的価値観を理解する上で重要なこのテーマについて、より深く探っていこうと思います。

アフリカの死生観とは?生と死をどう捉えるのか、地域ごとの違いも紹介

「死んだらどうなると思う?」──これは世界中の文化が持つ共通の問い。でもその答えは、国や地域によってまったく違いますよね。アフリカでも、死に対する考え方=死生観はとても深く、そして多様です。しかもそこには、先祖とのつながりを大切にする考え方や、生きている間の役割に対する独特の視点がしっかり根づいているんです。ここではそんなアフリカの死生観について、どんなふうに「死」を捉えているのか、そして地域による違いを交えて紹介していきます。



アフリカの死生観の共通点:死は“終わり”じゃない

コタ族の遺骨守護像(ガボン)

コタ族の遺骨守護像(ムブル・ングル)
先祖の遺骨を納めた籠を守るための守護像で、祖霊への敬意と葬送の儀礼を可視化し、死と生の連続性というアフリカの死生観を象徴する。

出典:『WLA haa Reliquary Figure Mbulu-ngulu Kota people』-Photo by Wikipedia Loves Art participant 'fresche'/Wikimedia Commons CC BY-SA 2.5より


アフリカの多くの地域では、死は「終わり」ではなく「移行」と考えられています。つまり、人は肉体がなくなっても、霊的存在として“生き続ける”という発想があるんです。


この考え方は、キリスト教やイスラム教が広がる以前から存在していたアフリカの伝統宗教に強く根づいています。特に多くの民族では、死者=先祖(アンサスター)となり、生きている家族を見守る存在として大切にされているんですね。


そのため、「死んだら終わり」というよりは、「次の世界で役割を変えて存在し続ける」という認識。だからこそ、葬儀はとても大事な通過儀礼として盛大に行われることが多いんです。


生者と死者がつながる「先祖崇拝」

ヨルバのエグングンの仮面行列(ベナン)

ヨルバのエグングンの仮面行列(ベナン)
先祖の霊をたたえ、交信するための祭礼で、色鮮やかな仮面装束が先祖崇拝の思想を象徴する。

出典:『Benin- Egungun masquerade』-Photo by Ahmzzywilmakeit/Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0より


アフリカの伝統的な死生観に欠かせないのが先祖とのつながり。多くの文化では、死者は“忘れ去られなければ”この世界に関与できると信じられています。


だから、こんな習慣が根づいている地域もあります:


  • 家の中に祖先のための祭壇や祠(ほこら)を作る
  • 定期的に供物や祈りを捧げることで、先祖との関係を保つ
  • 重大な決断(結婚、移住、収穫など)の前には、先祖に許可を求めるような儀式を行う


こうした文化では、死者が「いなくなる」ことはなく、「家族の形を変えて共に生きている」という考え方がとても強いんです。



地域による違いもいろいろ

とはいえ、アフリカは50以上の国と1000を超える民族を抱える大陸。死に対する考え方も場所によって違いがあります。ここではいくつか代表的な地域の特徴を紹介します。


西アフリカ(例:ガーナ、ナイジェリア)

ガーナ・アクラのファンタジー棺(鳥型)

ガーナ南部に住むガ族の鳥型棺
死者の職業や願いを象徴する造形棺。葬儀を色鮮やかに送り出す弔い方は、死を「人生の延長」として祝うアフリカの死生観を映している。

出典:『Accra (Ghana) - Fantasy coffins (adebuu adekai) - 4』-Photo by Rene Edward Knupfer-Muller/Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0より


ガーナでは、カラフルで独創的な形の棺桶(ファンタジーコフィン)が有名です。魚屋さんが魚の形の棺に入ったり、飛行機好きの人が飛行機型の棺に入ったり──人生の仕事や趣味を誇りにして死を祝う文化が根づいています。


東アフリカ(例:ケニア、タンザニア)

オルンゲシェル儀礼の最終日に行う剃髪の場面(ケニア)

オルンゲシェル儀礼の最終日に行う剃髪の場面(ケニア)
若者が戦士階級から年長者へと移行する通過儀礼で、人生の段階を区切る発想がマサイ族の死生観と結びついている。

出典:『Clean Shave』-Photo by Sabore Noah. J/Wikimedia Commons CC BY-SA 4.0より


マサイ族などの遊牧民族では、死体を自然に返すことを重視し、土葬せずに風葬にすることもあります。死後も自然と共存するという感覚が強く、死が“特別な現象”ではなく“自然な循環の一部”として捉えられています。


南部アフリカ(例:南アフリカ、ジンバブエ)

ズールー王国の祖とされるンコシンクルの墓碑(ムグングンドゥルヴ、南アフリカ)

ズールー王国の祖とされるンコシンクルの墓碑
祖霊を敬い記憶をつなぐ場としての墓碑が、死と生の連続性や先祖崇拝の思想を物質化している。

出典:『Graf van Nkosinkulu buite Dingaanstat-hoofingang』-Photo by JMK/Wikimedia Commons CC BY-SA 3.0より


ズールー族などでは、先祖との関係を重視する一方で、「悪霊」「呪術」などの影響も信じられていて、死因の背後に霊的な力が関与していると考えることもあります。そのため、死後に霊の怒りを鎮める儀式が行われることも。


キリスト教・イスラム教とどう共存してるの?

アフリカ大陸では現在、キリスト教とイスラム教が大多数を占めています。けれども多くの人は、宗教と伝統の死生観を“両立”させているのが特徴です。


たとえば、教会で葬儀を行った後に、村で祖霊に祈る儀式を続ける人も多くいます。これは「矛盾している」というよりは、どちらも大切にしたいという複合的な信仰スタイル


アフリカでは「両方信じる=信仰が深い」という感覚もあるんです。


死生観から見えてくる「生き方」

アフリカの死生観を知ると、見えてくるのは「死を怖がる」より「どう生きたかを大事にする」という姿勢。死は「おしまい」ではなく、「次の世界への旅立ち」とされ、その人が生きてきた証がどう記憶されるかに重きが置かれているんです。


だからこそ、葬儀はしんみりしたものではなく、“その人の人生を祝う場”でもあります。音楽が鳴り、踊りがあり、時にはユーモアすら交えながら、生きた証を共有する。そんな「生と死のつながり方」は、ちょっと羨ましくなるくらいあたたかいものです。


アフリカの死生観は、死を切り離された「終わり」じゃなくて、家族や自然との新しいつながりの形として受け止めるもの。その感覚には、今をどう生きるかに対する深いヒントが詰まっているのかもしれません。